今月の話題〜3月〜



今月の話題は2月24日、25日の2日間、京都で行われた日本慢性疼痛学会のシンポジウム“慢性疼痛の最近の進歩”より選らんでみました。



1、針鎮痛の機序に関する研究の現状;(明治鍼灸大学、川喜多健二)

中国の針麻酔に発した針鎮痛に関する鎮痛機序に関する研究で は、針通電刺激に応じた内因性オピオイドの放出が関係するとされている。しかし、微弱な針刺激による鎮痛については、説明が困難で ある。最近、ポリモーダル受容器を入力とする鎮痛系の一つとして、DNIC(広汎性侵害抑制調節)と呼ばれる極めて速い鎮痛現象と針鎮 痛の関連、さらに、ポリモーダル受容器の感作が考えられている。ツボとは何かは難しいが、1)形態学的特異性はない、2)阿是穴が ツボ、3)鍼灸家がツボと考えるところ、4)ツボは流動的に発生する、5)ボンハン学説の再検討、6)経絡図は地図と考える、など が現在のところ考え方かと思われる。


2,非侵害―次知覚ニューロンにおける遺伝子発現変化と神経因性疼痛;(兵庫医科大学、小畑浩一)

ニューロパシックペインの基本病 態メカニズムは部分的軸索損傷である。末梢神経の一部の繊維は軸索切断を受け、様々な因子によりその細胞体での自発的興奮性が高まり 、その影響が脊髄二次性ニューロンへ及ぶ、一方、傷害を受けていないニューロンは何かの原因で末梢のレセプターの感受性が亢進し、増 強された侵害情報がこのニューロンを介して中枢へ運ばれる。このような二つのメカニズムが混在し、より複雑な病態を形成する。


3,慢性疼痛に対する脊髄グリア細胞の重要性;(九州大学薬学研究院、津田誠、井上和秀)

脊髄などの中枢神経系では、数的に神経 細胞の数倍にも及ぶグリア細胞は、神経細胞の栄養補給といった補助的役割が想定されてきたが、最近では、神経活動に積極的に関わっ ていることがしめされ、疾患、生理的役割への関与が注目されている。神経因性疼痛では、末梢知覚神経の損傷は、脊髄後角のグリア細 胞、とくにミクログリア細胞の肥大化および細胞増殖などを起こし、ミクログリアを活性化状態へと移行させる。われわれは、活性化型 ミクログリア特異的に発現が増加する機能分子として、イオンチャンネル型ATP受容体サブタイプのP2X4受容体を見出し、その役割を解明 することで、脊髄ミクログリアが神経因性疼痛に因果性を持つことを明らかにし、、非常に重要な役割をになっていることを示唆した。


4,脊髄後角におけるNMDA受容体リン酸化と神経因性疼痛;(関西医科大学医化学、芦高恵美子)

神経因性疼痛は末梢組織、 後根神経節、および脊髄において、様々な遺伝子発現の増減が認められ、転写レベルの調節が関与している。
また、リン酸化や糖鎖修飾、タンパク質のプロセッシンヅ等の翻訳後修飾も重要であると考えられる。興奮性神経伝達物質であるグルタ ミン酸の受容体であるNMDA受容体を中心に、そのリン酸化に関連した神経因性疼痛の形成、維持機構について検討した。脊髄後角では、 I、U層では、NMDA受容体サブタイプNRTとNR2Bの発現が、V、W層においてはNRTとNRUの発現が報告されている。NR2 BのTy1472のリン酸化は、シクロキシゲナーゼ阻害薬のインドメタシン経口投与やプロスタグランジン(PG)受容体サブタイプEP1選択的 拮抗薬(ONO-8713)脊髄内投与によって阻害された。神経因性疼痛の形成、維持には、脊髄後角におけるNR2BのTyr1472のリン酸化が関与 しており、PGE1のEP1をかいした活性化が引き金であることが示唆された。




筆者一言
 痛み、特に慢性疼痛に関する基礎的研究も進歩してきており、そのメカニズムも少しずつ分かって来ました。 今回の学会では、基礎と臨床の両面からの検討した発表があり興味深いものがありました。今回、次回に分けて 私の理解した範囲で、要点のみですが紹介したいと思います。臨床との結びつきは、未だの感がありますが、ここ に紹介した研究などは、すぐにでも、臨床での慢性疼痛を理解し、治療に役立てて行けそうに思いました。




一口メモ

今年に入り、漫画家さんが監督・原作の大作映画が続々です。原作手塚修さんの「どろろ」も監督大友克洋さんの 「蟲師」も原作安野モヨコさん「さくらん」も。現実的でない話でも見ているとなぜかスッと入り込む。それだけ 映像を作る技術が日本は優れているのでしょうか?

温暖化とは気づいていましたが、いつもより10日も早い桜の開花予想にビックリしました。地域ごとの桜のお祭りは、 今年も時期はずれなお祭りになってしまうんでしょうか。日本の四季が減らないといいですよね。。。上野駅で早咲きな種類の桜が 満開だとニュースで見ました。まだ3月になったばかりなんですがね(^−^;



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