今月(2018.4.)の話題は、2018.3.3に東京で行わらた第54回日本東洋心身医学研究会より選んでみました。 東洋医学は心身一如の医学と考えられ、心身医学と共通のとこらがあり興味ある演題が沢山あります。 1. 特別講演:摂食亢進ホルモン“グレリン”と摂食障害、六君子湯との関連(久留米大学生命科学研究所、児島将康)グレリンは胃から発見されたホルモンで、基本的構造は28個のアミノ酸からなるペプチドで脂肪酸のオクタン酸により修飾されており、この脂肪酸がないと活性化されない。グレリンは胃、腸で合成され、血中に分泌され、下垂体に作用して成長ホルモンの分泌を促進し、視床下部に作用して食欲を刺激することが知られている。末梢から中枢へ空腹シグナルを送るホルモンとして機能している。漢方薬の六君子湯がグレリンの分泌亢進やシグナル増強作用を示す。グレリンには、1)腸の蠕動運動の亢進、2)体が温まる、3)わずかに血圧が下がる、4)血中成長ホルモンの分泌亢進、5)食欲亢進などの生理作用がある。 一般演題から 1. 十全大補湯によりうつ症状(疲労倦怠感)が改善したレビー小体認知症の一例:済生会横浜市南部病院神経内科、その他、中江啓晴、他)レビー小体認知症のBPSDのうつ症状、元気がない、体がだるいに十全大補湯が有効であった。 2. ジストニーがた書痙と考えられる手指痙攣に漢方治療が奏功した2例:(えのもとクリニック、福原慎也、他)意図的な行為時に手指の筋痙攣の2例に柴胡桂枝湯が有効であった。 3. 難治性慢性疲労症候群患者への漢方薬による治療経過:(前沢診療所、鈴木順、他)18才から全身倦怠感、無気力の続いていた46才の男性に漢方治療、女神散で、体の濁った感じが澄んだ感じになり、44才から投与した柴胡桂枝乾姜湯により症状が軽減し、SSRIの併用でQOL改善が得られた。 4. 小建中湯の気虚に対する作用について:(和泉丘病院、尾崎哲、他)統合失調症、妄想性障害、高次脳機能障害の例で、食欲低下などの腹部症状に、向精神薬に小建中湯を併用し有効であった。 5. 心療内科・精神科における漢方薬の速やかな効果発現について:(岐阜県総合医療センター漢方外来、佐藤泰昌)心療内科・精神科領域で抗不安薬を頓用で処方することは度々あるが、過鎮静や依存などの副作用が無視できない。気分が落ち込んときに苓桂朮甘湯5gを頓用、いらいら時に抑肝散、気分が落ち込んだ時香蘇散、過食時甘麦大棗湯5g頓用し、投与15分以内に効果発現の得られた経験をした。 6. イライラに用いる3方剤の使い分けを交流分析におけるきほん的な構えから考える:(香川県立保健医療大学看護学部、塩田敦子、他)PMS38例で検討した。抑肝散(加陳皮半夏)が36,8%、甘麦大棗湯が23.7%、加味逍遥散が15.8%に有効で、抑肝散は自己否定、他者肯定、加味逍遥散は自己否定・他者否定、甘麦大棗湯は自己否定の構えを持ったもののイライラに効果的であった。 7. シンポジウムより:東洋医学に立脚した心身医学的アプローチの提案:(近畿大学心身医学、奥見祐邦)、心療内科と心身相関と心身一如は相似している。診療に際しては、主訴のみに縛られず他の身体症状を救い上げることに重点を置いている。生活習慣と環境を考慮した治療が必要である。 8. 外陰部症状に対する漢方治療について:(札幌白石産科婦人科病院、武田智幸、他)外陰部症状の大部分は湿疹や膣炎である。今回は、湿疹、膣炎症状を伴わない原因不明の外陰愁訴に関して治療し、清心蓮子飲が有効であった。 9. 月経前症候群の精神症状にたいする柴胡加竜骨牡蛎湯の効果:(まきメンタルクリニック、西崎真紀)月経前は、普段より神経過敏になり抑うつ気分や不安を生じたりしておる場合が多い。肝の高ぶりのために、柴胡加竜骨牡蛎湯を投与することが多い。 10. 不安障害に柴胡桂枝湯加牡蛎が著効した2例:(郡上市民病院心療内科、森清慎一)虚証タイプの不安障害に桂枝加竜骨牡蛎湯の有効であることを報告したが、腹証で胸脇苦満を認める場合には、柴胡桂枝湯加牡蛎が有効であった。 筆者一言: 心身医学と心身一如を重要な医学の要点とする東洋医学は共通するところがあり、この研究会には沢山の演題があり、毎回、興味深く拝聴し、参考にしてもらっています。今回もここに挙げたように日常診療に参考になる報告が見られました。グレリンの発見者の児島先生が特別講演があり、胃、腸からのホルモンが脳に影響し、体コントロールをしておること述べられ、体の不思議を感じましたし、我々はこのような働きを六君子湯などでうまく利用していかねばと思いました。
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