今月の話題〜12月〜



 今月は、7月7日、8、9日に横浜で行われた日本ペインクリニック学会から選んでみました。痛みの治療を中心に幅広く検討される学会です。 今月は、この学会のシンポジウム、特別講演などから選んでみます。



*炎症性疼痛の最前線

T)炎症性疼痛に用いる鎮痛剤:炎症は抑えたほうがよいか?:(鹿児島大学医歯学総合研究科侵襲制御学、長谷川麻衣子、他)
1)NSAIDsはプロスタグランディン産生を抑制し、炎症を抑制し、炎症性疼痛に対する第一選択薬である。PGE2が炎症・疼痛促進作用を持つのに対し、 その代謝産物である15d-PG12は逆の作用、炎症を終結させる作用を有する。つまり、アラキドン酸カスケードのメディエーターは炎症・疼痛促進→炎 症の終結―>創傷治癒の一連の組織変化を担っており、NSAIDsを長期投与することにより、かえって炎症の遷延化や慢性痛への移行を助長する可能性 がある。
2)オピオイドの免疫抑制作用:免疫抑制作用を有するオピオイドとNSAIDsの併用は炎症組織や全身状態に影響する。
3)局所麻酔薬は神経や創傷治癒に関わる炎症細胞・ケラチノサイト・組織再生に関与する細胞の抑制作用を有し、局所浸潤麻酔は組織酸素分圧を低 下させ負に作用しかねない。

U)炎症性疼痛とTRPA1チャンネル(transient receptor potencialチャンネル)(九州大学麻酔・蘇生学、辛島裕士、外須美夫)
哺乳類では、TRPVL,TRPM,TRPM,TRPA,TRPP,TRPMLの6つのサブファミリーがある。TRPA1は炎症に関与する受容体で、侵害受容体に関与しておると考え られる。TRPA1阻害薬は鎮痛の有望なターゲットとなりうる。

V)骨関節炎の痛みのメカニズムと薬物治療の最新の進歩:(信州大学麻酔科、石田高志、他)
骨関節炎では、滑膜繊維芽細胞や軟骨細胞からのIL-1やTNFαの放出が関与している。炎症は間接周辺にも波及し、慢性的な侵害刺激は中枢性感作が 起き、痛みを増強する。骨関節炎では、関節、骨の病変が互いに痛みを修飾し増強する可能性がある。近年、関節炎に関与するメディエーター(IL-1β、TNFα) 、関節炎に関与する侵害受容器(TRPV1.TRPA1)や神経増殖因子(NGF)をターゲットとした鎮痛薬の開発が行れている。

*脊髄刺激療法のup to date

<座長の言葉>(東京医科大学麻酔科 大瀬戸清茂、他)
脊髄刺激療法(spinal cord stimulation SCS)は神経調節療法(neuromodulation)の一つである。治療目的は、脊髄硬膜外腔に刺激電極を 挿入・留置し、脊髄を電気刺激して痛みを緩和することである。有効性が認められているのは、脊椎術後慢性痛、複合性局所疼痛症候群、末 梢血管疾患、などがある。帯状疱疹痛、多発性硬化症、脊椎間狭窄症、脊髄損傷、視床痛、や、痙縮・痙性斜頸や、狭心症パーキンソン病な どにも行われている。日本では、Medtronic社、St.Jude Medical社、Boston Scientific社の3社からSCS機器が市販されている。

*パルス高周波の将来性

1)座長の言葉(NTT東日本関東病院ペインクリニック、安部洋一郎)
神経障害性疼痛の治療には、神経ブロック、手術療法があるが、いずれも最終的治療方法ではない。パルス高周波療法は神経損傷が少ないため、さまざ ま刺激時間、刺激パターンなど工夫すれば有益な治療法に発展することが期待できる。

2)椎間板性腰痛に対する椎間板内パルス高周波療法:(滋賀医科大学ペインクリニック、福井聖)
パルス高周波法は2.5万ヘルツの高周波を、0.5秒間隔で0.02~0.05秒、間欠的(1秒間に20-50mm秒持続で2~5回)に通電を2~15分間施行し、針先は温度42 度に保たれるようになっている。椎間板内高周波パルス療法は、椎間板内高周波熱凝固法(IDET)と同様な有意な改善を認められた。作用機序として、 (1)神経細胞内のイオンチャンネル(Naチャンネル、Ca2チャンネル)の働きの抑制、(2)電場の作用が、脊髄後角で、慢性痛による長期増強(LTP) に拮抗する、(3)ノルアドレナリン、セロトニン作動性の下降性抑制系を活性化する、(4)TNLα、IL-6などの炎症性サイトカインを抑制する、(5 )神経伝達物質のDRGで発現、増加することなどが考えられる。

3)神経根高周波パルス療法の際の針先の位置の検討:(仙台ペインクリニック、千葉知史)
神経根周辺に穿刺針を誘導し、パルス状の高周波エネルギーで刺激することにより、蛋白変性させない42℃以下に針先の温度を保ち神経ブロックを行 う方法である。針先がより神経根に近づけることは必要なく、神経根損傷などを考えると放散痛のないR-PFを行うことがより安全に効果を発揮するこ とが出来る。

4)パルス高周波療法の評価:(NTT東日本関東病院ペインクリンック、中川雅之)
海外の報告では三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、頸部神経根症、頸部椎間関節症、腰部神経根症、腰椎椎間関節症、椎間板性腰痛、慢性肩関節症、 膝痛などに有効であったと報告があるが、実際に行ってみると報告ほどの効果は得られない。局所麻酔薬、ステロイドによる神経ブロックと比し明 らかに効果のあることもあり、パルス高周波と神経ブロックを組み合わせて行っている。


*パネルデスカッション「多汗症治療 光と影」

1)座長:東京医科大学・大瀬戸清茂、佐賀医科大学・平川奈緒美
胸部交感神経ブロックから、最近は胸腔鏡下交感神経切除術(ETS)へと移行した。有効率は92%で長期に有効。ETSには術後に代償性発汗がほぼ 100%にみられる。ETSの患者の満足度で、後悔は10%前後である。

2)手掌多汗症の病態と治療:(佐賀大学医学部麻酔科、平川奈緒美) 手掌多汗症は精神性発汗で、交感神経の過剰反応により生ずる。交感神経は脊髄神経と異なり脊髄神経1対1に対応しておらず、ETSによる遮断範 囲の決定を困難にしている。重症度は発汗量で平均2mg/p2/min以上が重症。治療法として、1)塩化アルミニウムの外用及びイオントホレーシ ス、2)A型ボツリヌス毒素の局注、3)胸腔鏡下交感神経切除術(ETS)。腋窩の代償性発汗にはBT-A局所療法を行っている。



筆者一言
 痛みは人間が生存するためにえた大切な警報装置であり、痛みを感じない状態では、健康な生活を維持することは困難です。今回、この点からの 講演があり、鎮痛に際しては、原因、病態、原疾患の経過、予後等を考えて対処することが大切と再度思いました。痛みを取ればいいというもので はないですね。ペインクリニックは、最近は様々な方法、手段を取り入れ、習熟し、痛み以外の疾患も取り扱うようになって来ていますが、その一 端を今回紹介しました。ETSやR-PFなどは訓練も必要で、私は行っていません。




一口メモ

 ASKA容疑者残念です。信じたいところですが、最高裁もお墨付き“尿検査”は絶対薬物捜査において『尿鑑定は万能』 だそうなので真実なんでしょう。有名な方の薬物逮捕多いですね。それだけプレッシャーも抱えて仕事されているんでしょうが 発散方法は他にもあると思うんですけどね。一度手を出すとやめられないって聞きますが本当なんだって今回再認識しました。

 そろそろ寒くなって雪も降り冬到来です。タイヤ交換しましたか?暖房器具の準備や加湿器の準備も万端ですか? いつもより寒い冬になりそうなので風邪をひかないように予防しましょう。


「今月の話題」バックナンバーへ