今月の話題〜5月〜



 今月の話題は今年の2月26日、27日に佐賀で行われた日本慢性疼痛学会 より選んでみました。慢性疼痛の日本における総合学会です。興味ある演 題が沢山あります。今回は特別公演、シンポジウムより選んでみました。



1.モダン・カンポウ、そして痛みの治療へ:(帝京大学医学部外科、新見正則)
漢方は始めはプラセボと思って使用する、プラセボも痛みに結構効果があり、使っているうちに方剤の使い分けを経験し、 病名投与から、漢方的な診察をして漢方を使用できるようになると楽しみ出る。CVRRで加味逍遥散の効果、使い方を見て みると、CVRR値が3%以下のしびれや痛みを主訴とする方に有効であった。


2.痒みと痛みの脳内認知機構:(自然科学研究機構 生理学研究所、柿木隆介)

(1) 痒み認知:通電刺激による痒み発生装置を開発した。左右大脳半球の広範な部位に活動が見られ、楔前部(precutaneus) は痒み刺激にのみ特異的に活動がみられた。「掻くと快感を覚える」時は報酬系とされる大脳基底核の線条体と中脳が活動する。 ヒスタミンによって起こした痒みに対して、第一次体性感覚野に喉頭蓋直流電気刺激を与えると、優位な痒みの抑制が起こった。
(2) 痛覚認知:島前部、帯状回の一部、pre-SMAでは、C繊維刺激により特異的に活動が上昇しており、second pain認知に特 異的な部位である可能性が示された。
 運動の除痛効果には、筋肉や腱の動きや、関節位置感覚刺激、脳への上行性シグナルによる影響と運動皮質の活動による下行性シグ ナルによる影響がわかった。その作用部位は第一次感覚野、第二次感覚野、島回、帯状回が重要である。


3.慢性通に対するインターベンショナル治療:(高井病院 ペインセンター、橋爪圭司)
痛みの診断、治療には痛みの身体、心理、社会的要因をバランスよく判断し、望ましい治療法を選択する。慢性通には複数の症状が 混在することが多く、薬物治療、神経ブロックをそれぞれの作用機序に基づき使用し、リハビリテーションや心理・精神的アプロー チも重要な手段である。


4.腰部脊柱管狭窄症(LSCS)に対するインターベンション:(中谷整形外科病院ペインクリニック、森山萬秀)
腰痛には椎間関節ブロック、仙腸関節ブロック、トリガーポイント注射、椎間板ブロック、硬膜外ブロック、下肢痛、間欠性跛行には 硬膜外ブロック、神経根ブロック、クモ膜下ブロックを施行する。


5.慢性通における脊髄後枝内側枝高周波熱凝固法:(東京医科大学、麻酔科学、福井秀公)
慢性の頸部痛、背部痛、腰痛のうち、頸部痛では36〜67%、背部痛では34〜48%、腰痛では15〜45%は椎間関節が関係して いるとされる。後枝内側枝の高周波熱凝固による半永久的に遮断する方法がゆうこうであった。


6.緩和ケアを誤解していませんか〜痛みやつらさをもっと医療者に伝えてください〜:(京都府立医科大学疼痛・緩和医学、細川豊史)
本邦では我慢を美徳とする風潮があるが、最近では、胃t身がストレスとして死体に及ぼす免疫系を中心とした悪影響や、予後への影響をあたえるエビ デンスが示され、がん対策基本法とがん対策推進基本計画のなかで国策として”痛みのケア”が取り上げられている。患者の治療、ケアが病院から在 宅へと向かう流れの中で、痛み、緩和ケアは枢要な位置を占めることになってきている。


7.慢性疼痛患者への自律訓練法―指導法の基礎と疼痛患者への応用―:(九州大学心身医学、富岡光直)
自律訓練法は、中性的催眠療法(他者暗示によるリラックス法)でもたらされる心身の状態を、自己催眠によって生起させることを目的に考案された 法である。決まった言葉を心の中で繰り返し唱えることで、その言葉のような状態が得られるようになる。第一公式「両腕・両脚が重たい」と第二公 式の「両腕・両脚が温かい」が出来るようになる。慢性疼痛の痛みの持続メカニズムに介入する効果、交感神経の過緊張を反映する症状(不眠症、冷 え性)の改善も期待できる。


8.高齢者の慢性通―薬物療法を再考する:(鈴木孝浩)
有効性の高い神経障害性疼痛治療薬やオピオイドの登場で、治療選択が増えてきたが、副作用も過剰に発現しやすいため、できるだけ単剤とし、少量 から、投与回数を減じ、眠気やめまいの発現しやすい薬剤は就寝前から開始し、効果と副作用に徐々にならし投与する。


9.どうする、わかっていない慢性疼痛のオピオイド治療:(独協医科大学麻酔医学講座、山口重樹)
現在、各種ドラマドール製剤、ブプノルフィン貼付剤が慢性疼痛に対し承認された。「わかっていないことは長期治療の有効性と安全性」で、「わかっ ていることは長期治療の問題点」である。オイオイドの消費量が必要量(適正量)をはるかに超える国々では、オピオイドの私用、依存といった問題の みならず、慢性疼痛患者に対するオピオイド治療の長期治療の問題点、特に高容量化、長期化といった問題が深刻になってきいる。


10.帯状疱疹関連痛の治療:(福岡大学医学部麻酔科学、平田和彦)
帯状疱疹の痛みは急性期は侵害受容痛であり、帯状疱疹後神経痛は神経障害痛である。帯状疱疹後神経痛は、痛みの消失を治療目的とせず、痛みを出来る だけ軽減させ、日常生活が支障ないことを目指す。急性期にはアセトアミノフェンの定期投与に、オピオイド鎮痛剤の頓用、三環系抗うつ剤を投与する。 帯状疱疹後神経痛には第一に三環系抗うつ剤、ノイロトロピン、プレがバリンを用いる。



筆者一言
 慢性の痛みの治療に関するこの学会から、特別講演、シンポジウムセミナーから話題を選んでみましたが、多彩ですね。日常に診療に役立てて行きたい と思います。




一口メモ

 熊本県と大分県で起きた震度1以上の地震が、4月14日夜から5月7日深夜までに計1300回を超え。 崩壊の危険性のある建物からは離れるべきなのは頭では分かっていても離れられない方もいますよね。 まだテントや雨漏りする室内で過ごされている方もいると思います。 命と体を大切にしてください。自然災害は、どこでも起こり得る。助け合って復興しましょう。 日本は協力し合い、助け合える国ですから。

ちなみに、地震最警戒地域は九州、南関東地方、東北・関東の太平洋岸、奥羽山脈周辺だそうです。


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